セイ(青)ちゃんは事妊八幡に向かって飛んでいました。
そうすると首にぶら下げたおもちゃから音がします。
ぶつかって鳴る音もありますが、元々動かしたら鳴るおもちゃなので
移動で上に上がったり下に降りたり、
スピードを出したり、風が吹いたりしても賑やかに色んな音がしました。
音を聞いているうちにセイ(青)ちゃんはおもちゃが「行きたく無い」と
訴えているような気がしてきました。
(三個もあげるのはやっぱり間違っていたかも)
最初は、セイ(紅)ちゃんに会いたくてスピードを出していたのに
おもちゃが気になり出してどんどんと飛ぶのが遅くなって来ました。
(やっぱり今日は行くのを止めようかな・・・)
セイ(青)ちゃんはおもちゃを渡したく無いのでそんな事を考えはじめました。
彩玉さんの懸念通りになって来ました。
帰ろうと向きを変えようとしてふと蓮ちゃんの顔が頭に浮かびました。
(蓮もこのおもちゃで遊びたかったのかも・・・
でも赤ちゃんの為に我慢したのかも知れない)
蓮ちゃんの気持ちを考えたらちょっと大きいお兄ちゃんな自分が
「やっぱりおもちゃあげない」と言い出したら
蓮ちゃんを「わがままだ」とは言えないとそう思いました。
(まだ赤ちゃんな蓮が赤ちゃんにおもちゃを上げようと
自分から言っていたんだよな・・・これじゃあ僕の方がわがままに
なっちゃうよなぁ)
向きを変えずにゆっくりと事任八幡宮に向かいながらも、着いたらおもちゃを
あげるという事がセイ(青)ちゃんの心を重くしていました。
とうとう事任八幡宮に到着しました。
ゆっくりと歩いてセイ(紅)ちゃんと赤ちゃんがいる所に向かいました。
赤ちゃんはセイ(紅)ちゃんに抱っこされてのんびりと眠っていました。
赤ちゃんにつられてセイ(紅)ちゃんもうとうとしています。
そこにセイ(青)ちゃんがやって来ました。
気配で目を覚ましたセイ(紅)ちゃんは急に一人でやって来た
セイ(青)ちゃんに驚きました。
「セイ(青)ちゃんどうしたの?」
「あっ、うん・・・この間おじいちゃん先生に会ったんだ。
それで・・おじいちゃん先生の言葉をセイ(紅)にも伝えようかと
思ったんだ・・・」
セイ(青)ちゃんは話しながらも首にぶら下げている袋を
握り締めてそれから赤ちゃんを見てまた袋を見てと落ち着きません。
やけに落ち着かないセイ(青)ちゃんにセイ(紅)ちゃんは不審に思いました。
でもそれよりも皆が尊敬している息吹さんの言葉も気になりました。
残念な事にセイ(紅)ちゃんは息吹さんに邪気払いの旅の時に一回だけ
短い間に会っただけでした。なので勢いこんで聞いてみました。
「息吹さんがどうしたの?何か僕に言っていたの?」
でもセイ(青)ちゃんはどうもいつもと違います。
「えっと・・・あのね」そう話しながらも
目はおもちゃと赤ちゃんを行ったり来たりしています。
「セイちゃん?息吹さんの言葉って何だったの?」
早く聞きたくてセイ(青)ちゃんにせっつきました。
「あっ、えっとね。この間皆で邪気払いを頑張った事をね・・・」
そこで詰まってしまいました。
珍しく歯切れの悪いセイ(青)ちゃんにセイ(紅)ちゃんは
眉をひそめて更に不審に思いました。
(なんか変だよ・・・)
一番気になるのがセイ(青)ちゃんの持っている袋です。
さっきから首にぶら下げている袋を握り締めてやけに気にしています。
きっととても大事な物なんだとセイちゃんは気が付きました。
このままでは話が進まないので
息吹さんの話は後にする事にして聞いてみました。
「セイ(青)ちゃん、首にぶら下げている物は何なの?」
その言葉にセイ(青)ちゃんはびくっとしました。
言い当てられて言葉に詰まっています。
目線は首にぶら下げている袋を見ています。
「あっ、あの・・・このおもちゃをね・・・その・・」
そこでセイ(青)ちゃんが首にぶら下げているのがおもちゃだと
やっと気が付きました。
「セイ(青)ちゃんもしかしてここでおもちゃで遊びたいの?
でもさすがに僕はセイ(青)ちゃんとここでおもちゃでは遊べないかなぁ。
おもちゃ壊したらセイ(青)ちゃん怒るし・・赤ちゃんもいるから
壊したくないでしょ?」
「えっと違うんだ・・これは蓮が赤ちゃんに・・・」
ここでセイ(青)ちゃんは言葉に詰まりました。
『おもちゃをあげる』とは言いたくないので目が天井を見たり
セイ(紅)ちゃんを見たり、
赤ちゃんを見たりとあっちこっちを行ったり来たりしています。
セイ(紅)ちゃんは(何なのかな?)とまた眉を顰めていつもと違う
セイ(青)ちゃんにイラっとしてきました。
息吹さんの話をしに来たのにおもちゃを持ってきてとても変です。
息吹さんの話を早く聞きたいのに全然話が進みません。
何か言葉を言おうと口を開こうとしたところでずっと話していたので
赤ちゃんが起きてしまいました。
赤ちゃんは起きた途端にセイ(青)ちゃんとバチッと目が合いました。
セイ(青)ちゃんを見て赤ちゃんはにこ~っと笑いました。
誰もが幸せになる笑顔です。
セイ(青)ちゃんもついそのまぶしい笑顔につられてニコッと笑い返しました。
「セイ(青)ちゃんですか!こんにちは!ですっ。
僕はミエルちゃんですっ。もう赤ちゃんではありません。
ミエルちゃんと呼んでくだしゃい。よろしゅくでしゅっ」
急いで話しすぎて舌が回らなくなり途中から「サ行」がまた怪しくなり出し
たミエルちゃんです。
ミエルちゃんは新しいお名前を会う人皆に話して回るのが最近の楽しみです。
その為か最近はいつでもご機嫌です。でも元々ミエルちゃんが
不機嫌な事はあまりありません。
「蓮ちゃんはどこでしゅか?おもちゃは楽しかったでしゅっ。
おもちゃはだいしゅきでしゅっ。
蓮ちゃんのお家はおもちゃがいっぱい・・しゅてきでしゅね~」
キラキラしたお目めでおもちゃの楽しさを話し出しました。
セイ(青)ちゃんは「うっ」となりました。
おもちゃの楽しさを一番理解しているつもりのセイ(青)ちゃんは
おもちゃが無いミエルちゃんがとても可哀そうになりました。
(僕・・・おもちゃ渡したくないけど・・・
でもおもちゃの無いミエルちゃんに
おもちゃをあげるのってすごく良い事だよね・・・)
首にぶら下げていた袋の中のおもちゃを手に取るといまだに
渡したくないと思いながらもセイ(青)ちゃんは勇気を
振り絞ってそのおもちゃをミエルちゃんに差し出しました。
邪気払いをする時より勇気がいりました。
ミエルちゃんはセイ(青)ちゃんが差し出したおもちゃを見て目を輝かせました。
「おもちゃだっ!僕のしゅきなのだぁ。このおもちゃだいしゅき~」
それは嬉しそうに両手を出して受け取るとどれも鳴らしたくなってしまいました。
両手に二つをもって急いでぶんぶんと振り回しました。両手から音がします。
「音がしゅるの~。しゅごい面白いの~。この音しゅきなの~」
あと一つはお膝に乗せています。途中でお膝のおもちゃでも遊ぶ為です。
「きゃっきゃ、きゃっきゃ」満面の笑みでそれは楽しそうに振り回しています。
とても楽しそうにおもちゃで遊ぶミエルちゃんの姿は癒しそのものです。
セイ(紅)ちゃんはニコニコと可愛いミエルちゃんの様子を見ています。
セイ(青)ちゃんはおもちゃを手離して少し寂しげですが
ミエルちゃんの嬉しそうな様子を見て自分のした事は
正しいんだと自分を納得させています。
ミエルちゃんが夢中でおもちゃで遊んでいるのでセイ(紅)ちゃんは
またセイ(青)ちゃんと話しだしました。
「セイ(青)ちゃん・・大事なおもちゃなのにミエルちゃんにあげてもいいの?」
「・・・うん。ミエルちゃんだっけ?あの子おもちゃで遊べないなんて
可哀そうだからね。僕もう赤ちゃんじゃないから遊ばないおもちゃなんだ・・・
でも・・えっ?そんなにしたら壊れちゃいそうだよっ!」
ミエルちゃんを見ながら話していたセイ(青)ちゃんは
あんまり乱暴にミエルちゃんがおもちゃを振り回すので
目を見開いてその乱暴な仕草を見つめています。
前回は蓮ちゃんしかミエルちゃんがおもちゃで遊ぶところは
見ていませんでした。
(彩玉さんはミエルちゃんが興奮して振り回し始める前に眠って
しまっていました)
だからセイ(青)ちゃんは初めてその姿を見たんです。
夢中になっているミエルちゃんは全然周囲の様子を気にする事も無く
「きゃはははっ、きゃあ、きゃっきゃっきゃっきゃっ」と元気いっぱいです。
とても楽しくて嬉しそうにブンブン振り回して遊んでいます。
先ほどは癒しに見えたミエルちゃんですが、
今はおもちゃを破壊する小さい怪獣のように見えてきました。
セイ(青)ちゃんはミエルちゃんが持っているおもちゃを指さしながら
「これっ。すぐにおもちゃが壊れちゃいそうだよっ。
こんなに乱暴におもちゃを扱うなんてっ信じられないよっ」
セイ(青)ちゃんはミエルちゃんにあげたおもちゃを奪って持って
帰りたくなりました。
ミエルちゃんは元々シエルちゃんよりは少ない物の山と海の
エネルギーを持つ
ウガヤフキアエズ様からエネルギーをもらって生まれた子です。
そのパワーは計り知れない物がありますので
小さくてもとてもパワフルな存在です。
通常のおもちゃでそのパワーを受け止めきれるはずがありません。
近いうちにそのおもちゃは壊れてしまう事間違いなしです。
せっかく身を切る思いであげたおもちゃがすぐに壊れてしまうなんて
許せないと思っているセイ(青)ちゃんです。
すぐにでも持って帰りたいセイ(青)ちゃんをセイ(紅)ちゃんは
引き留めました。
「大丈夫だよ。もう少しすれば暴れすぎて眠っちゃうからそうしたら
おもちゃを手から離すからね。それから神様にお願いして補強してもらうよ。
せっかくのおもちゃが壊れたらミエルちゃんも悲しむから、神様も
ちゃんと補強して下さると思うんだ」
セイ(紅)ちゃんがまるで何でもない事のようにそう穏やかに言うので
やっとセイ(青)ちゃんも安心してきました。
毎回ミエルちゃんの子守をしているセイ(紅)ちゃんはミエルちゃんの
行動パターンをすべて把握して慣れていました。
だからそのパワーにも慣れていて感覚が鈍くなっていましたので
セイ(青)ちゃんの慌てぶりにかえってびっくりしたぐらいです。
「うん。そっか。それならいいかな・・心配しちゃったよ・・・」
セイ(青)ちゃんはミエルちゃんにあげたおもちゃを見ながらもほっとしました。
それから肩の力が抜けて脱力しながら下を向いて「はぁ~」っとため息をつきました。
セイ(青)ちゃんはミエルちゃんを見る目を少し変えました。
可愛い赤ちゃんだと思っていましたが実はとっても「危ない奴(子)」かも知れないと。
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