高尾山の修行体験記 紅ちゃんとゆにちゃんとラリマーちゃん④

小龍ちゃんの話

ゆにちゃんの修行参戦
その後天狗先生は「授業内容を検討しなおしたい」と話して
教科書のような書類を 手にもって教室から出て行きました。
紅ちゃんは緊迫した空気が終わって「ほうっ」と溜息をつきました。
午前中の授業が潰れてしまいました。

それもこれもラリマーちゃんのせいです。
(お家に帰るのが遅れたらラリマーちゃんのせいだっ)
紅ちゃんは少しラリマーちゃんが恨めしくなって
ラリマーちゃんの背中に向けてきっとにらんでしまいました。
(正面からラリマーちゃんをにらむのは紅ちゃんには出来ません。
気が優しいのでなるべく穏便に済まそうとするのが紅ちゃんです)

ラリマーちゃんは紅ちゃんのそんな視線にまるで気が付いていません。
今はどうしたらこの高尾山の修行をわくわく楽しい物に変えられるかを考えています。
二人ともそれぞれの考えに没頭していた時に意外な存在がやって来ました。

ゆにちゃんです。 ゆにちゃんは武士姿で剣をさして颯爽と歩いてきました。
歩き方も研究していたのでカッコよくきまっています(と本人は思っています)
これから天狗先生にご挨拶に行かないといけないので少し緊張気味です。
その目の前にびっくりした様子のラリマーちゃんと紅ちゃんがいました。

ゆにちゃんは早速声をかけました。
「やぁ!僕も 修行 に来たからよろしくねっ」すごく(修行)と
言う言葉に力がこもっています。
嬉しくてしょうがないようで武士姿なのに満面の笑みです。
筋肉ムキムキのスポーツ選手が爽やかな笑顔で武士の衣装を
身につけているような違和感がありました。

紅ちゃんが驚きながら「おっ・・お兄ちゃん・・
なんでゆにお兄ちゃんが来てるの?お母さん達のお守りはいいのっ?」
同時にラリマーちゃんも声を上げていました。

「やぁっ、懐かしいねっ。君も来ていたのか~。
こんなとこで会えて嬉しいよっ」

そう言った後紅ちゃんとラリマーちゃんはお互いの顔を見合わせました
紅ちゃんは「お兄ちゃんを知っているの?」
ラリマーちゃんは「お兄ちゃん?同じお家にいるの?」
ゆにちゃんは修行に来たら懐かしい友達にも会えたので嬉しくなりました。

お家でお笑い好きな子が紅ちゃんの修行仲間だと知ってから
(もしかして・・・)と思っていたので
余計行きたいという思いを強くしていたのです。

満面の笑みで嬉しそうに笑いながら顔を見合わせている二人に抱き着きました。
「僕の好きな二人と一緒に修行が出来るなんてとっても嬉しいよっ」
ゆにちゃんもラリマーちゃんも意外な人(龍)の
出現にまだ混乱しまくっています。
二人とも目を白黒させながらぎゅっと抱きしめられたせいで
息苦しくなってきました。
ゆにちゃんはいつも鍛えているのでとても力があります。
全力で抱きしめられたら息苦しくもなります。

紅ちゃんが「おっ、おお兄ちゃん・・・くっくるしいよぅ」
息苦しさのあまり紅ちゃんは必至でそう訴えました。

ラリマーちゃんも「・・ち、ちょっと・・
ははは離してっ・・」

ゆにちゃんの馬鹿力で二人はなかなか離してもらえませんでした。

ゆにちゃんと天狗先生の挨拶

ゆにちゃんが苦しがっている二人を笑って抱きしめていると
遠くから天狗先生が歩いて来ました。
その足取りに隙はありません。素早く歩きながらもゆったりとしています。
ゆにちゃんがその足取りに「うむっ。出来るなっ。さすが先生(師匠)だ」
ゆにちゃんの中では剣の師匠は天狗先生が適任かも知れないと思えてきました。
そのため「先生」が頭の中で「師匠」に変換されてしまっています。
ゆにちゃんは抱きしめていた二人を離すと顔を引き締めて襟を
両手でぴっと引っ張って挨拶に行くためにしっかり正しました。

そして颯爽とした足取りで天狗先生に近づいて行きました。
「先生(師匠)拙者はゆにでござる。急に修行に加わる無礼をお許し下され。
今後先に来ている二人と共に修行して高みを目指す所存でありますので
よろしくお願い申し上げるでござる」と頭を下げました。
せっかくの挨拶なので言葉を変えて特別の武士言葉です。

ゆにちゃんの言葉はアニメの影響で(忍者ハットリくん)が混じっていますので
正確に武士として話していないと思われますが、気持ちは武士です。
しっかり挨拶したので(ちゃんと挨拶したぞっ!)と顔をあげて満足そうに
「ふんっ」と鼻息荒く、やり切った事に紅潮した顔で嬉しそうにしています。


天狗先生はあっけに取られていました。
追加で小龍をすぐに派遣すると龍宇様から連絡を貰ったので、
細かい話を聞く暇もありませんでした。
急いで泊まる場所の確保、追加の授業道具を準備して足早にやってきたら、
武士の格好をした子が立っていました。

意外な格好に驚いていると特徴的な話し方でまくしたてるように
話しかけて来ました。
天狗先生も珍しくすぐに返事が出来ずに
話終わるまであっけにとられたまま聞いていました。

全て聞き終わってからその満足そうにしている顔を見てやっと我に返りました。
「・・・君がゆに君だね。高尾山にようこそ。私が・・・だ。
(天狗先生の名前は聞き取れませんでした)
これからよろしくね。・・・ところでゆに君はその恰好で授業を受けるのかな??」
どうにか驚いて話せなかった事をうまく隠してゆにちゃんにそう質問しました。

ゆにちゃんは天狗先生の言葉に自分の武士の格好を見直しながら、
「拙者のこの格好が変でござるか?ですが我が格好は高尾山で修行しながら
武士を目指す為に特に動きやすいと思い拙者が厳選して着て来た服であるのですが。
もしこの服が問題であるのでしたら涙を呑んで違う服を着るでござる。
もしかして天狗先生の天狗服を貸して頂けるのですかな?ふむ~それも
また素晴らしい体験になるかも知れませぬな!」
そう言って自分の言葉にうんうんと納得しています。

天狗先生は頭を抱えてしまいました。ラリマーだけでも対応が難しそうなのに
更にゆにという問題児がやって来たと分かったからです。
頭を抱えながらもふと、ゆにが天狗服を着て高下駄をはいている所を
想像してみました。
その想像で先生は思わず「ぷっ」と吹き出しそうになりました。

笑いをこらえようと必死になっていると
今度はラリマーちゃんがそれを目ざとく見つけて急に声を上げました。
「先生っ!何か面白い事があったんですか?何が面白いのか是非、
教えて下さい!お笑いのノートに一つ、ネタとして書き込みたいです!」

「えっ?ラリマーちゃん、それは後にしてくれぬか?
今は拙者が先生と武士服についての相談をしていたのであるからな」
「いいじゃないっ、ちょっと位。先生の面白い話を絶対ノートに
書きたいから、ちょっとだけ天狗先生を貸してよっ」
「ダメでござる。拙者が先に話していたでござる」
「ゆにちゃん、なんで急にそんな変な話し方に
なっているのさ?それに何だか前より真面目になった?
すごく固くない?もっと柔軟になろうよ?」
「拙者は修行するために自己を鍛えているのでござる。
これは柔軟になったら鍛えられないでござるよ。
それにこの話し方が気に入ったでござる」と
ラリマーちゃんとゆにちゃんの話が延々と続いています。
この感じではいつまでも会話が終わりそうにありません。

天狗先生は二人のやりとりを見ていてすっかり冷静に戻っていました。
そして思わずため息をつきました。
色々と前途多難だと感じたからです。
紅ちゃんはそんな天狗先生を気の毒そうに見つめていました。

紅ちゃんはゆにお兄ちゃんの性格に大分慣れて来ていました。
それにここではラリマーちゃんにも振り回されている気がしていました。
だから天狗先生の苦労を人一倍感じていたのです。

そこで紅ちゃんはトコトコと天狗先生の傍に歩いていって
先生を引っ張ってしゃがませると耳元で
「先生。僕ね天狗先生のお気持ちすごく分かるから、
先生にご迷惑にならないようにします。
それとゆにお兄ちゃんの性格少しわかるから何か
あったら僕に言って下さい。僕が代わりにゆにお兄ちゃんに
言いますね」と言いました。

わざわざ先生の耳元で言ったのはラリマーちゃんとゆにちゃんが
相変わらず大きな声で言いあっていたのと、先生の立場を
気遣ったのです。

天狗先生は紅ちゃんが唯一の救いのように感じて
ほっと嬉しそうに微笑みました。
「紅は優しいな。私は先生だからどんな生徒も対応方法を見つけるが
君の気遣いは忘れないよ。ありがとう」
そう言って紅ちゃんの頭を撫でました。

紅ちゃんは撫でて貰ってさらに褒めて貰ったので
嬉しそうに頭に手を置いています。

紅ちゃんに心配された天狗先生はかえって闘志を燃やしました。
(先生としてあの二人をしっかりと教育して見せる!)
そう強く決意した天狗先生でした。




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